おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

手術当夜のことなど

ごきげんよう、つるつる頭だけどちゃんとシャンプーを使って頭を洗うおじさんです。シャンプーは地肌を洗う洗剤だから、髪がなくてもシャンプーはいるの。リンスとかコンディショナーはいらないの。

まず、今回も宣伝。『夏の魔法』。ご購入頂けますと、おじさんの生活がちょびっとましになります。

さて、前回はようやくお腹を切って手術をしたお話をしたのでしたね。

麻酔で眠っている間に済んでしまったので、ほんとに手術をしたのかどうか定かでない感じで。術後に目覚めたときに下腹部に鈍い痛みはあったから、多分ほんとに切ってる。

看護師はわかっている

ストレッチャーで運ばれて、ベッドには大人数で移してくれました。おじさん、当時は体重が73kgほどだったんだけど、さすがに5~6人もいればするりと移してもらえるものです。

そう、ヤンヒー病院には充分な数の看護師や職員がいるのです。日本の病院はいつもかつかつの人数で忙しそうなのですが、ヤンヒー病院では2~3時間に1回、看護師が病室を巡回してくれるし、いつも2人組なのです。

病室のベッドに寝かせてくれて、その後もテキパキとベッドの背を30度程度に傾けてくれて、ベッドの膝の部分も少しだけ持ち上げてくれて、枕許にはおじさんが持参した携帯電話や手帳、病室に備えつけのテレビのリモコン、ナースコールのボタンを配置してくれました。何も言わなくてもここまでしてくれるのです。

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真っ平らなベッドよりも少し背と足を上げている方が楽に寝ていられるし、お腹を切っているので頭を持ち上げることさえできません。「枕から少し頭を浮かせる」というのは何でもない動きのように思えますが、実は腹筋を使っているんです。お腹に大きな傷があるので、術後直ぐは痛くてそれもできないのです。痛くなくても傷が「ぱかっ」となりそうで、怖くてできない。

だから、腕だけを動かして手に取れる範囲に携帯電話やらリモコンやらを配置してくれる訳です。左に置いてあるものは右手で、右に置いてあるものは左手で取れば取りやすい。ベッドから肩を浮かせるなんてできませんから、枕の直ぐ傍に置いてくれます。「よくわかってる」なー。

Do you have イタイ?

その夜は1~2時間に1回程度、巡回に来てくれました。その度に赤外線体温計で検温してくれて、尿バッグ(導尿カテーテルがつながってるので)を確かめてくれて、などなどの世話を焼いてくれます。

病院のタイムスケジュールでは21時が消灯ということに「一応」なってはいるのですが、日本の病院みたいに照明を消さないと注意されたりなんてことがありません。起きていてもテレビをつけていても怒られない。あ、病室は全室個室です。個室だけど広くて、風呂、応接セット、冷蔵庫、ベランダがあります。全室です。

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おじさんは先の回でも述べましたようにうつ病持ちで、その症状として不眠があります。眠剤を服まないといつ眠れるかわからない。それに、精神科の薬って国境をまたぐのが難しいので、おじさんも主治医の処方を持参していません。2箇月ほど前からやめてるし。だから照明だけ暗くしてテレビをぼんやり見てました。

テレビの方も、看護師はよくわかっているのでNHKの国際放送にチャンネルを合わせてくれています。これが有難い。身体を切って内臓を抜き取るなんてことをしていますから体力は落ちているし、そうするとどうしても気力も下がってきます。おじさんはうつ病持ちで、それなのに薬が服めていないから、余計にダウナーです。そんなときに母国語を耳にできるというのは、とても心強い。

母国語が聞こえない環境というのは、思いのほかしんどかったりします。だから、海外へ何らかの理由で長期に出かけるときは、日本語の歌が入った音楽だとか、ドラマや映画のDVDだとかを持参するといいです。ポータブルDVDプレイヤーを持ち込めば、病室でもDVDを見ることができます。アテンド会社にお願いすればたいてい貸してもらえるようです。

このときのおじさんはDVDを持参していなかったのでNHKを見ていたのですが、ちょうど大河ドラマの『義経』が放送されていました。主人公の源義経役で現在 J 事務所副社長、当時アイドルタレントの滝沢秀明氏が出演していたアレです。

看護師が巡回してきたときにちょうど義経(滝沢氏)がテレビに写っていたので、それを指さして看護師に「He is a Japanese famous actor」などと中学英語で話しかけてみると、20歳前後とおぼしき看護師女史は「handsome」と呟きました。外国の人が見ても美形なんですね、タッキー。

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ひんぱんに看護師は巡回してくれたのですが、来るたびに看護師はどの人もどの人も「Do you have pain?」と訊ねてくれました。「痛くないですか?」てことですな。「Do you have イタイ?」と訊いてくる人もいました。

ヤンヒー病院は海外からの患者もたくさん受け容れていて、地上十数階建てのうちの1フロアがまるまる外国人用の病棟になっています。日本人もたくさん入院していて、おじさんと同じように女性型の身体を男性型に訂正したい人がほとんどです。日本語話者が「イタイ」「イタイ」と言うので看護師も憶えたのでしょうな。

もっと後の体験で知ることになるのですが、タイの人というのは耳から聞いた言葉を自分の身体を使って再生するのがとても上手なようで、看護師たちも患者から聞いた日本語をどんどん憶えていきます。この頃は「イタイ?」とか「サムイ?」などの一語文の人がほとんどだったのですが、数年後には日本語ペラペラの看護師が現れます。

日本人の患者が増えたから病院の偉い人が勉強しろと言った、という訳ではなく、看護師が必要に応じて自ら勉強した、という訳でもなく、耳で聞いて、患者と会話するうちに憶えてしまったのだそうな。すごいね、タイの人。

お腹はこんな風

お腹は確かに切り裂かれていまして、横に切っていました。

同じ箇所の同じ手術でも、身体に対して縦にメスを入れるか横にメスを入れるか、執刀医によって、患者の体質によって、患者がその後に受ける手術の内容によって……さまざまな要素で決定されるようです。このときのおじさんは横に切られていて、ほんとに切腹したような感じですね。

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上の写真は術後のお腹を携帯電話のカメラで自撮りしたもの。直後ではなく、術後3日目か4日目くらいかな?

術創の上をガーゼで覆って、その上をさらに防水シート(水は防ぐが通気性はいいやつ)で覆っています。だから、おじさんも自分の術創を見ていないのです。どうなってるかわからない。多少の鈍痛はあるから、多分ほんとに切ってる。

へその辺りに巻いた紐から、また縦に紐が出ていますが、これはナプキンをつけています。生理用ナプキンです。子宮・卵巣を切除したので、股間から出血があるんです。それを受け止める(?)ためにナプキンをつけているのです。

タイのナプキンが全部そうなのか医療用のナプキンだからなのかわかりませんが、ナプキンは日本の「夜用」みたいな大きさで、両端から紐が出ていて、紐の端っこにはプラスチックのフックがついています。そのフックをお腹に巻いた紐に引っかけて固定しています。おもしろいね。

入院着の円筒スカートの中はおパンツをはいていないから、下着に貼りつけるやつは使えないしね。何でノーパンかと言うと、回診なんかで患部を見たり尿道カテーテルのケアをしたりするときに、ぺろっとめくるだけで済んで楽だから(多分)。着心地も締めつける部分がないし解放感があってなかなかグウです。

 

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