おじさん、女子部屋に入院〔個人史17〕
ごきげんよう、関西人らしく粉もの大好きのおじさんです。粉もの丼OK。
突然身体が動かなくなったおじさんは突然入院を言い渡されました。しかも言い渡された翌々日を入院日に指定されてしまいます。怒濤の展開に飲まれて二つの市を跨いだ向こうの病院に辿りついたおじさんを待っていたのは!
おじさん女子部屋に入れられる
ときは西暦2000年。おじさんはそろそろおじさんになろうかという頃で、既に男性として生活していたものの、戸籍上は女性のままでした。入院する病院のその病棟には、個室がありません。だから、男性部屋か女性部屋のどちらかに入らなければなりませんでした。
はたして、おじさんはまず女性部屋に入れられてしまいました。本人の性自認よりも保険証記載や戸籍に従って病院は判断したのですね。おじさん既にスポーツがりの若おじだったんですけど。
とは言え、部屋ではベッドに寝ているだけですから、殊に性差を感じる場面はありません。それに、おじさん自身、気力も体力も尽きたような状態だったので抗議するとか云々の気も起きず、ひとまず女性部屋でおとなしくしていました。
まわりはおばさんとかおばあさんばかりで、みんな精神面でしんどい人たちなので、他人のことをとやかくしている余裕なんてありません。部屋に新しく来たのがどんなやつかなんてのは気にしていません。おじさんも周りのことは気にしていないつもりでした。
担当看護師K氏現る
ところで、このブログをお読みのみなさんは入院の経験がおありでしょうか。入院すると「担当看護師」がついてくれます。その人だけがお世話をしてくれる訳ではないのですが、その人が中心になって自分を管理してくれるのです。
看護師はたいてい三交代勤務です。おじさんの担当看護師、仮にKさんとしておきましょう、Kさんはおじさんが入院した日は深夜勤でした。おじさんが眠った後に出勤してきて、翌朝の朝ごはんを食べている間に退勤しましたので、初日は会えなかったのです。
シフトが切り替わったのは翌日。Kさんはその日準夜勤で、17時辺りからの勤務。わざわざベッドまで挨拶に来てくれました。名乗りと「何でも言ってくださいね」という型通りの挨拶だったのですが、何だかすごくほっとしたことを憶えています。
と言うのも、特に気にしてはいないつもりでいたのですが、やはり女性部屋で過ごすのは居心地がよくなかったのです。経験したことがない「身動きできない」という事態から急転直下の入院劇。
しかも自宅から電車でも自動車でも1時間ほどかかる不慣れな街で、いつ退院できるかわからない生活がはじまり、「こっちじゃないのになー」という区分の部屋に入れられて、そりゃまー頭の中がぐちゃぐちゃになってますわな。
そんなときに看護師がわざわざベッドまで来て挨拶してくれたのです。このときまでにも入院の経験がおじさんには何度もありましたが、担当看護師が「担当看護師です」とわざわざ顔を見せに来てくれたことなんてありませんでしたから、とても有難く感じました。
疾風怒濤の転室劇
と、ここまでが長い前提です。そして入院3日目。おじさんはただベッドに横になって過ごしていたのですが、そうすると「もの思う」とか「考える」とかの時間がたっぷりあるものですから、自分のただいま現在の境遇を考えてしまうのですな。
すると、やはりどうしても自分が女性部屋に入院しているのは理不尽だしつらいのです。という訳で、何度も迷った末に日没頃の看護師詰所(現代風に言うとナースステーション)の扉を叩いたのでした。
余談ですが、精神科病棟の看護師詰所はだいたいどこの病院でも密閉式と言いますか、他の診療科で見られるようなカウンター式でいつでも看護師と対面できるといった部屋ではなく、扉によって患者の居住スペースとはっきりと区切られています。
で、扉を叩いて詰所に入れてもらい、「女性部屋にいるのはつらいです」というお話をさせてもらいました。そうしますと話を聞いてくれた看護師氏2名が「その旨、明日にでも看護師長と相談します」と言ってくれまして、当夜はそのまま就寝。
病院の朝は早いです。6時には検温がはじまります。その朝、検温よりも早く風のように看護師数名がおじさんのベッドにやってきて言いました。
「部屋を移動します」
棚に入れていた荷物も寝ていたベッドのシーツも手早くその場から持ち去られて、隣りの男性部屋の入口にあった空きベッドに移されます。おじさんは慌てて後を追います。
さっきまで寝ていたベッドに敷かれていたシーツが移動先のベッドに張り直されて、荷物も全部新しいベッドのわきに。おじさんは歩いただけ。疾風怒濤の移動術。あっという間にことは終わり、何ごともなかったかのようにおじさんは男性部屋の住人に。呆気にとられたのはおじさんです。
視野のお話に続く
という次第でおじさんは無事に自認の性にあった部屋に収まることができたんだけど、読者のみなさんは何だかすわりのよくない気持ちになっていないでしょうか。何だか不安ですよね? このときのおじさんもそうでした。だからおじさんはもう一度看護師詰所に行きました。
そのときにしたお話は、また次回に。乞う次巻。
▼誉ぽん、クリックぽん。