おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

腕にトンネルをつくる手術

ごきげんよう、随分遠まわりした上にちょっとニュアンスが違うけど、学生時代にやりたいと考えていた仕事ができているおじさんです。

ずっと性別適合手術のお話をさせて頂いてますが、前回まではおじさんが受けた性別適合手術の第2段階、内性器摘出術のお話でした。お腹を切って子宮と卵巣を取り出す手術です。お腹を横一文字に切った傷痕を見て頂きましたね。

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▲これこれ。

手術と手術の間の期間というのはもちろんあって、最低半年空けなさいということになっています。おじさんの内性器摘出術から第3段階の尿道延長術&皮弁形成術までは3年半空いてます。体調やらお金やら仕事やらの都合で、これだけ空きました。

手術と手術の間には何があったかというお話もいずれできたらと思いますが、先に手術の話を全部しちゃいますね。

アテンド会社を変えて出発

おじさんは乳房切除術、おっぱいを切り取る手術ですね、これだけ国内で済ませて、内性器摘出術以降の手術はタイ・バンコク市にあるヤンヒー病院で受けました。外国です。日本語はほとんど通じません。

その上、おじさんは国内でさえ旅行にも行かない人だったので、海外へ行くために何をどうしたらいいのかわかりません。だから、病院や手術の手配から飛行機のチケットやバンコク滞在の宿の予約、空港からの送迎などなど、すべてお世話くださる医療アテンド会社を利用しました。

ということは、内性器摘出術のときもお話ししました。

当時はタイでの性別適合手術を扱う医療アテンド会社というのは2社しかなく、性別適合手術についての情報もほんとに少なかった。だから今度は、はじめて利用したのとは違う会社を利用して、その体験を記事にまとめて公開しようと考えました。

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という訳で、「もう1社」の方のアテンド会社に申し込みをして、タイに旅立ちます。前回は9月でしたが、今回は2月。真冬です(日本は)。

持病のうつ病の薬をやめて、へろへろの状態で渡タイしたのは前回と同じです。

前回はJAL機で飛んだのですが、今回用意されたのはTG機(タイ国際航空)。みっちみちに満員で座席も小さく、「きゅっ」て感じですわっていなければならず、キャビンアテンダントは英語で話しかけてくるけど頭ぐるぐるで聞き取れないし、パニック障碍持ちのおじさんにはとてもつらかったです。タイまでの5時間ぐったり。

隣席の(おそらく)タイ人女性がミールサービスなど通訳してくれたり世話を焼いてくれて、有難くも申し訳ない気持ちでした。

腕に穴を開けるよ!

タイに到着した翌日に入院して即手術です。宿からアテンド会社の車で病院に送ってもらい、いよいよ執刀医のS医師と対面です。

S医師は女性型の身体を男性型に形成する技術でつとに有名な医師。日本からも彼の手術を受けるために多くの人が渡タイしていて、おじさんは3回、ヤンヒー病院に入院しましたが、いずれのときもおじさん以外にも日本人患者が数人、入院していました。

S医師は痩身かつ長身で外観が理系(個人の感想です)。診察室で対面すると、「利き腕はどちらか」と訊ねられました。おじさんは右利きなのでそう答えると、S医師はおじさんの左腕を取って、マジックで らくがき 線を書きました。

外科のお医者って切り取り線(違)を身体に直接マジックで書くんですよね……おじさんはおっぱい切ったときもマジックで書かれました。裁縫するときのチャコペンみたいな、人体用のペンはないのか。

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写真は左腕の内側です。線で囲まれた部分に、トンネルをつくるのです。これが陰茎形成準備術の準備です。

陰茎形成術とは、ちんちんをつくる手術のことです。陰茎形成準備術はその準備のための手術。何と左腕の内側がちんちんの材料になるのです。 

「腕にトンネルをつくる」と言われても、多分みなさんピンと来ていないんじゃないかと思います。ので、陰茎形成準備術が終わった状態を見てみましょう。

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手術から1年4ヶ月後くらいの写真です。刺さっているのはカテーテルです。貫通しております。先ほどの写真でS医師が書いた青い長方形の部分にトンネルがつくられた訳です。「15」と書かれていたのはトンネルの長さ(単位:cm)です。

なぜ、このようなことをするかと言いますと、こうして開通したトンネルが尿道になるのです。

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こんなことするなんて思ってもみなかったでしょ? 図のように腕の一部を切り取ってちんちんがつくれるんですよ。

とは言っても、ネイティブ男性が生まれ持ってくるちんちんと同じものは、もちろんつくれません。勃起しないし、射精もできない。できるのは立ち小便だけです。

でもね、それでも。

ないとあるでは全然違うのです。男性のみなさんにはおわかり頂けることと思いますが、そこに「あるはずのものがない」というのは、それだけで頼りないと言うか、心細いものなんです。

でもでもでも。できた「モノ」の手ざわりは、ネイティブ男性の平常時そっくりです。ふにょふにょとさわり心地がいいです。

あ、腕を材料に使うのはS医師の術式です。病院が違うと術式も違うことがあります。おじさんが受ける手術は前腕を使いますが、上腕を使ったり、下腿を使ったり、下腹を使ったりと、手術にもいろいろあります。

機械にセッティングされる

S医師のお話は陰茎形成準備術だけでなく、もちろん同時に行う膣閉鎖・尿道延長術についてもありました。さらに、手術を受けるに当たって酒・煙草・薬の類いを指示通りに一切断っていたかも、厳重に確認されます。煙草1本でも喫っていたらこの場で「帰れ」と言われてしまいます。

おじさんは酒も煙草ものまないし、常用薬も前回同様へろへろになりながら断ってきてますので、手術はもちろんOKです。

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腸内洗浄をして、剃毛をして、前回の手術のときと同様にストレッチャーに乗って手術室へ向かいます。剃毛は前回T字剃刀で剃ってくれたのに対して、今回は電気剃刀だったという違いがあり、前回やらなかった腸内洗浄はおじさんが思ってたのと違った。

腸内洗浄やるよー、て連れて行かれた部屋には、でっかい装置が置いてあって、そこに砕石位で寝かされます。砕石位というのは、開脚診台に乗るときの恰好です。

そこで肛門に管を挿し込まれて、ゆっくりとぬるま湯が注入されて、どんどん腹がふくらんできて、やがて腹がぱんぱんになります。そうすると「全部出して」と看護師に言われます。

注入されたぬるま湯と腸内にたまっている糞便を、管を挿入したまま一遍に排出します。排便の要領で出す訳ですが、腹の中のものがどばどばーっと出て行くのに、肛門に挿し込んだ管は出て行かないんですよ。不思議。

排出した汚水汚物は機械に受け口があって、どこにどうつながっているのかはおじさんにはわかりませんでしたが、機械が処理をしてくれるようでした。

で。

砕石位で寝ているおじさんの向かい側にはパネルがありまして。うーんとね、ピンボール台のスコアパネルみたいなやつ。そのパネルにゲージがあって、「ゲージがいっぱいになったらナースコール鳴らして」と言い残して、案内してくれた看護師はいなくなりました。

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常用薬が服めなくてくらくらしているおじさんは事態がよく呑み込めてなくて、よくわかんないままに「はい」と返事をして一人取り残されたのでした。

しかし、湯が腹に入ってきて、「あーつらいかなー」てところまで腹が張ったら、排便の要領でちょっと下腹に力を入れて肛門を緩めて、腹にたまったものを出せばいいのだと、何度か繰り返すうちに感覚を掴めたので、ぼんやりそれを続けました。

パネルのゲージというのは、おじさんが排出した湯の量のようです。腹に入れられて、出したぬるま湯が処理されて機械のタンクにたまっていって、その量がゲージに表示されているのです。一定量入れて出してが終わったらOK、てことですな。

じょぼじょぼじょぼ……じゃばー、てのが40分ほど続いて、腸内洗浄はようやくおしまいになりました。宿便まですっかりきれい。確かにお腹がすっきりした感じがしました。こんなでっかい機械の一部となって、尻から湯を注入されては出し続ける小一時間を過ごす機会など滅多なものではありません。貴重な体験でした。

このあと、ヴィーンと電気剃刀で割りと乱暴に剃毛してもらい、ストレッチャーに乗って、医療ドラマの一シーンをまたもや見ることになるのです。

次は手術のお話

ではでは、今回はここまで。次回は手術とその後のお話。今度の手術に比べれば前回のお腹はずいぶんカンタンだったものです。

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