おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

おじさん、おじさんになる〔個人史33〕

ごきげんよう、ブラックコーヒーが飲めないままおじさんになったおじさんです。

性別適合手術のお話は全部済んだし、ものごころついてから手術に至るまでのお話もしましたね。前回はうっかり忘れていた戸籍訂正のお話をしました。さあ、おじさんがおじさんになるのに、もうひとつ必要な通過儀礼が残っております。今回はそのお話をいたしましょう。

30代は「おじさん」か否か

おじさんがまだ学生だった頃、「『中年』とは35歳以降」ということがまことしやかに流布されていました。その何年か前にはその世代を「『中年』ではなく『実年』と呼ぼう」てなことも言われはじめました。でもあんまり定着してないね「実年」。

30歳と29歳の間にある距離というか壁というか、そういうものの存在は物語の中でよく見かけられました。『銀河英雄伝説』(田中芳樹東京創元社)という大河小説の主人公の1人ヤン・ウェンリーは30歳になることをとても厭がっていて、29歳時に「もう30歳なんだから」的なことを言われると悉く「まだ29歳だ」と訂正していました。

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アニメーション『新世紀エヴァンゲリオン』(庵野秀明監督)に登場する葛城ミサトは、やはり29歳。そろそろ「イイ年」だがまだ「20代」(若者)の領域にいるという微妙な年令の彼女は、ときには母のように、ときには姉のように、ときには友人のように、主人公の少年と接していました。それはひとつ年長の30歳では叶わなかったことかもしれません。

という揺れ動くお年頃の直ぐお隣りの30歳。29歳の人からやたら敬遠される30歳。まだ若いもん、と意地を張りがちな30歳。おじさんも30歳になったときは周囲からおっさん呼ばわりされるたびに「おっさんじゃない、お兄さん!」と訂正していました。やはり「自分はおじさんではない」という意識があったのですね。

おじさんと出会ったおじさん

その過剰な若者意識が氷解したのは2011年春のこと。おじさんは4月生まれなので、41歳になるかならないかの頃です。前厄ですね。当時まだ深夜まで起きていられる体力があったおじさんは、『Tiger&Bunny』(さとうけいいち監督)というTVアニメーションと出会います。

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Tiger&Bunny』、通称『タイバニ』の主人公の1人、鏑木・T・虎徹は35歳。ヒーローとして活躍しているが、正直のところ成績はいまひとつ。ほかのヒーローたちより年長で体力的にも遅れを取っているところを有り余る気力でカバーしている。そこで一計を案じた所属会社からはクビにされるまではいかないものの、新人の若いヒーロー、バーナビー・ブルックスJr.とペアを組まされることに。

バーナビーはルックスよし、能力よし、現場対応力よし、かつスタイリッシュ。虎徹を名ではなく「おじさん」と呼んで足手まとい扱い。奮起する虎徹と迷惑顔のバーナビーとの摩擦、コンビを組むことで変化する互いの心情を描くのが『タイバニ』です。

ヒーロー「ワイルドタイガー」こと虎徹は妻に先立たれて9歳の娘を男手で育てつつがんばる「おじさん」です。35歳なんて全然おじさんじゃないんですが、30歳未満の人はなぜか30代をとても年寄り扱いします。20代のバーナビーもやはりそう。

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そうしてことあるごとに「おじさん」と揶揄されながら奮闘する鏑木・T・虎徹は、いまひとつ恰好よくないです。スタイリッシュでスマートなバーナビーと一緒にいるために余計にずっこけて見えます。しかし、何ごとにも全力で当たり何ごとも最後まで諦めずみっともなく食らいつくその姿は、実にかっこいい。

若者が思う「恰好よさ」とは違うかもしれません。中年以降だからこそ理解し得るのかもしれません。その姿とバーナビーが向ける「おじさん」という言葉が結びついて、そのときのおじさん(筆者)の胸の内に、よいイメージの呼称として「おじさん」が入ってきたのです。

おじさんになったおじさん

という訳で、ひじょーにまことにまったく以て単純な話ですが、これ以来おじさんは「おじさん」と呼ばれることに抵抗がすっかりなくなり、それどころか進んで自称するようにまでなったのです。SNSやブログのハンドルネームも「おじさん」だしね。

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このような次第で、女児として生まれて育ち、性別移行を果たして経年しながらも「おじさん」を拒んでいたおじさんは、自他ともにおじさんと称するおじさんになったのでした。これにておじさんがおじさんになるまでの話、おしまいです。今回が突然の最終回なのでした。

次回はおまけとして、これまでお話ししてきたことや、それ以外のたくさんのことを経験して培われてきた、現在のおじさんの考えていること、考え方などをお話ししておこうかと思います。

ここで一旦おしまいですが、書き忘れたことを思い出したり、何となく書いておきたいなと思うことが出てきたりしたら、気紛れに更新していくかもしれません。気が向いたらときどき様子を窺いに来てください。

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それから、「え、あの話を期待してたのに書いてないじゃん!」て話がもしありましたら、右カラムにおじさん宛てのメールアドレスが書いてありますので、お気軽にその旨お便りくださいな。時間を見つけて書くようにします。

ではでは。ここまでお読みくださって有難うございました。また近々お会いしましょう。

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