おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

手術をするなら病気はしちゃ駄目だ

ごきげんようカップ焼きそばに入っている乾燥キャベツだけをカップいっぱい食べたいと思うことがあるおじさんです。

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随分以前に書いたものですが、小説がKindleで発売されました。

 いくらか手直ししてのリリースです。500えん。短編かつお安いので安心してお求めください。

さて。

いよいよお腹を切る手術を決意したおじさんのお話をしていましたね。おじさんは幼い頃から割りと病気がちでしたが、お腹を切ったことはありませんでした。盲腸も切らないで散らしてましたし。

そのおじさんが、三十路も半ばを迎えてから、しかもはじめて国外へ出て、お腹を切ります。もちろん自分で切るんじゃないです。お医者に切ってもらいます。

はじめて飛行機に乗って海外へ行く

もともとおじさんはインドアで出不精です。デヴじゃないよ、出不精。おじさんはデヴだけどデヴと出不精は全然カンケーないからね。

インドアなおじさんは、三十路に入ってから少しずつ外へ出るようになってきたけれど、それまで旅行なんて修学旅行しか行ったことがない人でした。

その デヴ 出不精のおじさんが、性別適合手術を受けるためにタイへ行くことになりました。

なぜタイなのか?

ということは前回にお話ししました。タイで手術をするのが「早い・安い・うまい」だからです。待たなくていい、お金も少なくて済む、手術が上手という3つのメリットがあったのです(あくまで2000年代当時のお話)。

行く前にはもちろん、タイという国について、タイへ性別適合手術を受けに行った人たちのお話を調べました。乳房切除術(おっぱいを切り取る手術)のときのような失敗をしてはいけないので。

その上で決めたことでした。3箇月くらい毎日調べものをしていたなあ。

かくして、おじさんは「医療アテンド」というものを利用してタイの首都バンコクにある病院で手術を受けるべく、はじめて飛行機に乗るのです。

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「医療アテンド」というのは、病院で治療を受けるために渡航する人たちを世話してくれる人です。現地の言葉、医療用語を熟知していて詳しく通訳してくれる。空港から病院、病院から宿泊施設その他必要な施設へと送迎してくれたり、航空券や宿泊施設の手配などをしてくれたりします。

おじさんが内性器摘出術、つまり子宮や卵巣を切り取る手術を受けようという頃は、タイの性別適合手術をアテンドする会社は2社のみでした。そのうちの1社を、会社訪問した上で選び、お金はそこに支払います。

そうするとアテンド会社が病院の予約やら飛行機の手配やら何もかもやってくれて、おじさんはアテンド会社の指示通りに飛行機に乗って出掛けるだけでOK。はじめての海外で何を用意していいやらわからないのでそれも調べて、荷造りして、旅立てばいい……という訳には、実はいかなかったのです。

薬を一旦停止

実はおじさんはうつ病持ちです。

おじさんがまだおじさんではなかった頃から不調ははじまっていて、でも「みんなこんなもんだろ」とおじさんは思っていて、やっと精神科で診てもらったのは阪神大震災が起きた日でした。

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そのときからずっと薬を服んでいます。一時はまったく駄目な状態になって入院したこともありましたが、タイでの性別適合手術を決意した頃は処方された薬を服んでさえいれば比較的元気でした。

しかし、タイで手術を受けることになって、手術してくれる病院からこのような注意を受けました。

「手術の1箇月前から一切の服薬をやめること。ホルモン注射やサプリメントも駄目です」

これがあるために、「うつ病持ちは性別適合手術を受けられない」という風にも当時は言われていました。うつ病の人というのは、これもちょーかんたんに言うのですが、元気のレベルが低いところで安定しているのです。それを薬で補助して一般の人と同じレベルまで持ち上げて、一般の人と一緒に過ごせるようにしているのです。

だから薬を服まないでいると、ずっと低調です。

しかも、「1箇月前からまったく服まない状態にする」ためには、2箇月くらい前から薬をやめはじめなければなりません。それまで服んでいた薬をいきなり全部やめてしまうと離脱症状が出てくるからです。離脱症状というのは、俗な言葉で言うと禁断症状です。

薬の種類にもよりますが、急にやめると頭が痛くなったり、熱が出たり、目眩がしたり、身体に不調が起こります。だから、少しずつ減らしていく必要があります。その「少しずつ」を、3~4週間かけて減らすのです。

へろへろのぐるぐる

おじさんのうつ病は、どちらかと言うとメンタルよりも身体に出てくるタイプで、目眩や倦怠感、頭重感などがストレスによって顕著に出てきます。だから動けなくなるんです。ひどいときは横になった状態から半身を起こすこともできない。

薬を服まないと、概ねそういう状態になります。身体を起こすとくらくら目眩がして、まっすぐ歩けません。自分がまっすぐ歩けている自信が全然ないので怖くて外出もできません。

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当時からおじさんはひとり暮らしです。

必要なものがあれば自分で買いものに行かなければなりません。でも、それも難しくなってきます。水は蛇口までたどりつければ飲むことができます。食べるものがあれば電子レンジでの調理くらいなら何とかできます。でも食べもの自体が家になければ食べることもできません。

ほかの何がなくても、食べものとトイレットペーパーを切らしてはいけないのです。

という訳で、外出できなくなってからは通販に頼りました。便利だなあインターネット。時代が10年も早かったら、こんなことはできていなかったかも。

渡航2箇月くらい前から、おじさんは自宅の外に出られないまま過ごしました。自宅の中を這いずるように移動しつつ荷造りをして、あとはほぼ寝込んでいました。

出発当日も、もちろんぐったりしていて頭ぐるぐるです。風景は回転しているし、ふわふわと身体全体が浮いているような感覚があるし、自分で自分の軌道が危ないなあと思いながら空港へ行きました。

ここで問題発生。うつ状態がひどい人間は、口を聞くことができません。声を出すことがもうしんどいのです。自分以外の誰かに発話するなんて、とても億劫です。そんな訳で、空港カウンターの係員に話しかけることがなかなかできず、おじさんはしばらくロビーの椅子でぐったりしていました。

元気だったら何てことのない搭乗手続きですが、おじさんはうろうろぐるぐるくらくらして「誰か助けて」と思いながら、やっとのことで済ませたのでした。ほんとうに助けてほしいときには「助けて」って言えない状態だったりするんですよね。

またながい

股長い。

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ではなく、またもや文章が長くなってしまいました。おじさん手短かに書くのが苦手でごめんなさいね。

そろそろ割腹(違)のお話ができるかと思っていましたが、まだようやく飛行機に乗るところです。ご期待のみなさま申し訳ございません。1回があまり長くなると読むのもしんどいでしょうから、今回はこの辺で。

 次回はお腹切るんじゃないかなあ。

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