おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

ホルモン注射の思い出話

ごきげんようカップ焼きそばに入っているフリーズドライのキャベツだけをカップいっぱい食べてみたいおじさんです。

前回まではおっぱいを切り取ったときの体験をお話ししました。自分で読み返してみると些か駆け足だったようにも思うのですが、落ち着いてお読み頂けたかしらん?

おじさん、手術は多めに経験しています。おっぱいのほかに、目蓋を切ったこともあるし、お腹を切ったこともあるし、あと腕を切ったり尿道に管を突っ込まれたりしてます。歯茎を切開したこともあったなあ。

そんな風に、痛い体験にはこと欠かないし、人に話すと結構ウケます。あと、話を聞いただけで痛がっちゃうセンシティヴな人も割りといるんですが、そういう人に痛い話を更にたたみかけるのがおじさんは結構好きです(悪趣味)。

ホルモン注射の話をはじめるよ

最初のお話がかなり痛い話だったので、次はちょっと痛みがましなお話にしましょう。痛い話には変わりはないんですが。

2020/04/03の「何で性別適合手術を受けようと思ったの?」というエントリーでちらっと申しましたが、おじさんはおっぱいを切り取る手術のちょっと前から性ホルモン剤の投与もはじめています。

 性ホルモン剤が人体にどのような影響を及ぼすか、ということについては、正確な話はこのブログではできません。ひとさまに詳細をお伝えできるほど、おじさんはその知識に精通している訳ではないからです。

ホルモン剤についての正しい情報は、お手数ですが、ご自身でお医者さんに訊ねるなどして入手してくださいね。ここではあくまで「おじさんの体験」をお話しします。

あとね、老婆心ながら申し上げます。知識がないままに性ホルモン剤を身体の外から取り入れるってことは、しないでください。ほんのちびっとで身体に大きな影響がある薬剤です。気軽に使っていいものではないです。気をつけてね。

昔々のお話

さてさて。おじさんがホルモン注射をはじめようと思ったのは昔々のお話です。1990年代。「性同一性障害」という言葉がまだ巷に知られていない頃でした。お医者さんでさえ知らない人の方が多かったんです。

当時は、おじさんと同じように自分が認識している性別と身体の性別とにずれを感じてしんどい思いをしている人たちの中には、入手ルートを独自に発掘して、自分で薬剤を調達して自分で注射している人もいたらしいです。

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注射剤ではなく、錠剤や軟膏で摂取している人もいたようです。病院で注射してもらうには、してくれるお医者さんを探さなければなりませんでした。お医者さんの施術は「言い値」で行われていて、薬の価格+施術料金が20000円なんて病院も当時はざらにあったと伝え聞いています。

2004年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というとても長い名前の法律が施行されまして、それ以降はこんな法外な値段をふっかけてくるお医者さんももうない……んじゃないかと思います。

ちなみにですね、(法律上の)女性に男性ホルモン剤を、(法律上の)男性に女性ホルモン剤を投与するのは健康保険が効きませんが、男性に男性ホルモン剤、女性に女性ホルモン剤を投与するなら保険が効きます。

職業別電話帳って知ってる?

いまどきは病院やお店や会社の電話番号を調べるのもインターネット検索でささっとできちゃうけど、昔々の1990年代はまだ「インターネット」というものが、存在はしたけど一般には普及していなかった。まだ「パソコン通信」という電話回線を利用した通信を一部の人が使っていたくらいかな。

そんな時代だったので、おじさんは「職業別電話帳」というもので病院の電話番号を調べました。若者のみなさんはご存じないかも、と思ってるのですが、いかがでしょうか。知ってる? 「ハローページ」とか「タウンページ」とか。電話ボックスには備えつけられている……んだけど、電話ボックスも滅多に見かけなくなっちゃったね。

昔々はね、各ご家庭の電話番号のほとんどが掲載されている「五〇音順電話帳」と、店舗や会社などの電話番号が掲載された「職業別電話帳」てのがあったんですよ。いや、いまもあるんですが、ずいぶん薄っぺらくなりました。

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「職業別電話帳」は広告媒体でもあって、当時はとても分厚い冊子でした。「月刊少年ガンガン」とまではいきませんが、少なくともいまの「週刊少年ジャンプ」よりは分厚かったです。鈍器として使用できそうなほど。

その電話帳を使って、地元市内の産婦人科の病院の電話番号を抜き書きして、片っ端から電話をかけて問い合わせました。

「男性ホルモンの注射をしてほしいんですが、してもらえますか?」

片っ端から断られました。「うちではそういうのはやってないです」て断ってくれたら、まだ親切な方。中には「えっ?!」て言ったきり黙ってしまう看護師さんとか、「先生に聞きますのでお待ちください」て保留音鳴らして20分ばかり待たせた挙句にそのまま切ってしまう病院とかありました。

だから、十数軒の病院に電話をしてようやく「してますよ、来てください」と返事をもらったときはうれしくてうれしくて、電話を切って後、頭を下げて何度も「有難う、有難う」と呟きました。それは「有難いからそうしよう」と考えてやったことではなく、「思わず」やったことでした。

いよいよ病院で

「来てください」と言ってくれた産婦人科は、自宅からは少し離れたところにありました。電話の翌日、仕事が終わった後に、早速そこに向かいます。はじめてのホルモン注射です。

さて、病院でどんなことがあったのか。今回はずいぶん長くなってしまいましたので、また次回に。