おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

審判なくして訂正〔個人史32〕

ごきげんよう、年取ってあんまり食えなくなったなー、などと言いつつハンバーガー3コくらいだったらペロリのおじさんです。

「おじさんがおじさんになるまでの話」と銘打ってお話をしてきました。おじさんがまだおじさんでなく、世を忍ぶ仮の幼女だった頃の話から、すっかりおじさんになってからのお話も幾らかさせていただきました。

じわじわと「おじさんがおじさんになるまでの話」もお終いに近づいています。さて、おじさんがまだおじさんではなかった頃と、おじさんがおじさんになったのと、その境い目の頃にはどんなことがあったのか。お終いの前に、それをお話ししておきましょう。

性別が変わるとき

既にこのブログでお話ししてきましたように、おじさんが生まれたのは1970年、はじめて性ホルモン剤を摂取したのは1997年、性ホルモン剤の注射に辿りついたのが1998年、乳房切除したのも同年でした。

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はじめてタイ・バンコクの病院で性別適合手術を受けたのが2005年、すべての性別適合手術を終えたのが2013年です。この年にはおじさんの身体のかたちは概ね男性型に、社会的な性別や戸籍上の性別もこれよりもずいぶん以前に変わっていましたし、この頃には既にすっかりおじさんでした。

おじさんではなかった頃とおじさんのいま。その境界と思われる節目は、振り返るに2つありました。ひとつは戸籍上の性別訂正が叶ったとき、ひとつは「おじさん」を自称することに抵抗がなくなったときです。このそれぞれをお話ししましょう。

戸籍上の性別訂正

おじさんが身体の、また法律上の、その双方の性別を訂正した頃というのは、国内でヤミではなく合法的にそれらが可能になって間もない頃でした。

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性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というとても長い名前の法律ができたのが2003年7月、その翌年2004年7月から施行されました。その翌年2005年におじさんは内性器摘出術、子宮・卵巣を切除して生殖能力を除去するという非常に非人道的な(と国際的には非難されている)手術を受けました。

その後、現行法においても外性器形成手術なしに(内性器摘出術が済めば)戸籍上の性別の訂正が可能であるという情報を得て、2006年に国内のジェンダークリニックでその旨を相談して、裁判所への戸籍訂正申し立てのための診断書を書いてもらえるようにお願いしました。しかし、この時点では断られたのです。

2006年時点では外性器形成なしに内性器摘出のみでの申し立てで実際に戸籍訂正が叶った事例が少なく、確実な方法ではなかったのでした。可能性があるなら、とおじさんは食い下がったのですが、内性器摘出のみで申し立てをして却下されてしまったら、これから戸籍訂正申し立てをするほかの当事者たちの人生設計にも影響するから、とのことでこのときは見送りとなりました。

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さらに翌年2007年の定期受診時に医師の方から「あれ、できるようになりました」ということで、もう一人の医師にあらためて受診をして、その医師と担当医とに1通ずつ診断書を書いてもらい、その年のうちに……と言っても早や12月半ばだったのですが、地元の家庭裁判所に行って、戸籍訂正申し立てをしました。

制度がはじまったばかりのこと、手続きにも手間取るのではないかと思っていましたが、裁判所の職員には充分な事前教育が行き届いていたようで、するすると書類の提出と事前面談は終わりました。

さて、あとは審判をしてもらうだけなのだけど、12月も半ばを過ぎるし、審判は年が明けてからだなと思いながら迎えた翌年2008年1月半ば。裁判所から封書が届きました。薄い封書。開封してみると、「戸籍訂正したヨ」というおしらせ。

審判は? 裁判官に会わなくていいの?

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拍子抜けした正月明け。書類提出と簡単な面談だけで戸籍上の性別が訂正されたのでした。所見を書いてもらった紙の束(診断書)を渡して、A4判の紙が1枚届いて、それでお終い。変わったことと言えば、戸籍謄本という多少お金を出さないと閲覧もできない書類の上の1文字2文字。

それが変わったからと言って、日々の生活ががらりと変わる訳ではありません。戸籍を見ないとわからないことですから、戸籍の謄本なり抄本なりを見せびらかして「法律上の性が変わりました!」と言ってまわるようなことをしない限り、周囲の人はそんなことは知ったことではないのですから。

ただ、お勤めに出て社会保険の手続きの際に気を遣わなくて済むとか、病院で受診するときに「ご本人はどちらですか」と訊かれなくなるとか、役所で戸籍などの書類をもらうときに職員氏が戸惑わなくて済むとか、そういったこまごまとしたメリットがあるだけです。もちろんこのメリットは重要なのですけれども。

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こうしておじさんは法律の上、というか公的書類の上で男性となったのでした。これで幾ら年を取っても、おばさんやおばあさんにはならない……ということでいいのかな?
こうして「おじさん」の素地ができました。

とは言え、おじさんと呼ばれて仕方がない年令であったにもかかわらず、当時のおじさんはまだ「おじさん」と呼ばれるのを厭がっていました。では次回はおじさんが「おじさん」であることを受け容れることになった経緯でもお話ししましょうかの。ほっほっほ。

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