おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

確実な死は難関である〔個人史30〕

ごきげんよう、駄洒落を臆面もなく言える人が好きなおじさんです。

前回はおじさんが自殺企図したことをお話ししました。かなりいい加減でテキトーな生き方をしているおじさんでも死を望むことがあったのです。と言うか、おじさんは死を厭なものだとか悪いものとは思っていないので、現在もいつでもカムカムウェルカムです。

1990年代初頭から半ば辺りに自殺企図を思い立ち、『完全自殺マニュアル』を熟読したおじさんが選んだのは「薬物による自死」でした。

薬物で確実に死ぬには

さて、おじさんが選んだ薬物を使用する自殺は、準備が比較的かんたんです。特別な「毒薬」は必要ありません。市販の薬で死ねます。薬と称せられるもの、いやそれに限らず、人が口にするものにはすべて致死量というものがあります。要は致死量以上を摂取すればいいのです。

f:id:oji-3:20210429182119p:plain
たとえば、とある顆粒状の風邪薬。1包2g辺り数mgの劇薬が含まれています。その成分が人体にとって最も毒という訳ですから、それを致死量分、摂取すればいい。さて、そのためには1包2gの薬を茶碗に山盛り一杯服む必要があります。

山盛り一杯の風邪薬を得ようとすれば、1箱買ったくらいでは追いつきません。およそ一家に必要な量の数倍もの数を買わなくてはならない訳ですが、1箇所で風邪薬を大量買いしたら明らかに「怪しい人」です。自殺もしくは殺人を企てていると通報される可能性があります。

という訳で、1箇所に集中しないように薬局・薬店を渡り歩かねばなりません。購入場所の店舗同士は、あまり近くない方がいいでしょう。同じ薬を買った人物を見かけた人同士がご近所同士だと、各店舗で同じ薬をいくつも買っていった人はやっぱり「怪しい人」ということになってしまいます。

f:id:oji-3:20210429183935p:plain
ですから、数日をかけて広い範囲の薬局・薬店を、できるだけ風体を記憶されないようにまわって薬を買い集めることになります。薬を入手するにもちょっとした苦労をしなければなりません。

そうしてやっと買い集めた薬を茶碗に開けて、そのまま水で服んではいけません。たいていの薬は一度に大量摂取すると吐き戻すようにできています。吐いてしまってはせっかくの薬が台無しです。

致死量の薬物を摂取するためには、丈夫な胃腸が必要です。自殺の計画を立てたなら、早寝早起きの規則正しい生活リズムをつくり、適切な運動を心がけ、暴飲暴食や絶食は避けて、胃腸を健康に保つバランスよい食事をしなければなりません。

そう、服薬で確実に死ぬためには健康でなければならないのです。

f:id:oji-3:20210409170453p:plain
用意した薬もそのまま服むのではなく、ヨーグルトか何かに溶かして少しずつ食べます。一度に身体に入れると吐き戻してしまいますから、少しずつゆっくりと身体に吸収させるのです。

ゆっくりゆっくり食べて、薬ヨーグルトを全部食べきったら、おそらく数時間後には致死するでしょう。茶碗一杯の薬を溶かすためのヨーグルトはおそらく3kgほど必要でしょう。健康な胃腸が必要というのは、こういうことです。

途中で吐いてしまったら、体調を整え直してやり直しです。

一度死んだ感

ひとつ前の節をお読みになって、バカバカしくなりませんでしたか。死ぬためにはこれだけ努力が必要で、お金も必要で、何より健康でなければ死ねないのです。そして多分、健康だったら死のうと思っていなかったでしょう。

f:id:oji-3:20210429202647p:plain
服薬だけではありません。たとえば首吊りは喉を絞めるのではなく、縄に全体重がかかったときに頸椎がずれてしまうように縄をかけなければなりません。喉が絞まるだけでは人はなかなか死にません。また、縄が切れたりほどけたりしないように、丈夫な縄を選定し、しっかりとしたロープワークで設置する必要があります。

それだけ気を付けてなお、失敗の可能性が非常に高いのが首吊りという死に方です。

断崖絶壁からの投身。断崖絶壁は平らではないので、身を投げても着水前に断崖に身体がぶつかって、大怪我をするだけで死なない可能性が高い。ビルなどの高所からの投身も、飛び降りた先に軒や日除けテントや通行人があるとそれらがクッションになって死の確率が下がります。

かように、「確実に死ぬ」ということはとても難しいのです。かんたんには死ねない。自殺の方法を一ト通り読んでしまうと、そういったことが分かったと同時に1回死んだ気分になりました。1回死んだからもう死ななくていいです。

 f:id:oji-3:20210429195954p:plain

こんな訳で、おじさんの自殺企途は未遂に終わったのでした。「もしものとき」のために『完全自殺マニュアル』はいまも手許に置いていて、死ぬことはいまも全然厭ではないのですが、加齢とともにあらゆることが面倒に感じるようになってきていて、現在では自殺も手間がかかるし面倒だなー、と思っています。

▼クリクリクリクリクリクリクリック!

ブログランキング・にほんブログ村へ