おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

自殺企図〔個人史29〕

ごきげんよう、できるだけ旬のものを食べるように気をつけているおじさんです。

前回まで救急車に乗った経験をお話ししていました。ちょっとめずらしい体験シリーズです。救急車で助けられたお話をしましたので、次は死に直面したお話をしようと思います。

おじさんがまだおじさんではなかった頃

1990年代のことです。おじさんは20代でした。家庭の事情で大学を中退してから、まともに仕事に就けない時期が続きました。世を忍ぶ仮の女性だった頃です。

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社会から求められる「女性らしさ」を持ち合わせていなかったおじさんは、でも、それを適度に持った「フツーの女性」こそを雇いたいという「まともな仕事」に振り向いてもらえず、またそれ故かそうでないのか、ちょっとだけ足を突っ込んだ公務員にバブル経済後の就職氷河期に帰り咲こうと、いま思えば非常にツゴーのいいことを願っていたり、つまり、迷走していました。

この迷走振りについては、1ダース以上も職種を経験したよと以前にこのブログでもお話ししましたが、ただ能天気に各々の経験を楽しんでいた訳ではなかったのです。

迷走していたということは、どれもこれも巧くは行っていなかったということ。人生低迷期です。この時期までに蓄積された抑圧と、新たに生まれた「新しい家族」への遠慮と、先行きが不透明な境遇と、巧く行かない就職。就職については自分のジェンダーと社会から求められるジェンダーとのずれも関係しています。

「新しい家族」というのは、幾らか以前から他都市で生活していた姉が帰郷したのですが、結婚して子と夫を連れて実家で生活をはじめたのです。そうしますと、おじさんはそれでなくとも小姑。

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まだ実家暮らしだったおじさんは非常に肩身が狭い。しかし仕事が安定せず家を出られもせず。そんな頃です。もー頭ぐるぐるでまともにものも考えられない状態になっていました。言うまでもなく情緒は不安定で、そんな状態ではやることが巧く行くはずもありません。

マニュアル流行の折り

見事な悪循環。深い深い泥濘の沼に捕らわれたかのような、動けそうで動きが取れない状況。そんな現世から逃れたい。おじさんは思ったのです。

その頃流行っていたのは「マニュアル本」。○○マニュアルと題した読みものがたくさん出版されていて、書店に行って本を眺めたり読んだりが好きだったおじさんもそういった類いはよく目にしていました。

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その流行の発端こそは、おじさんが手に取った本『完全自殺マニュアル』です。平成初頭の当時でも結構な非難を浴びていましたが、読んでおもしろく「参考になる」本でした。

完全自殺マニュアル』とは、タイトル通り自殺の方法が詳細に記された本です。それも1種類2種類ではなく、物理的なものから化学的なものまで多岐に渡り、実行する人の能力・状況に合わせて「より確実な方法」を選べるようになっています。

この本はベストセラーとなり、さまざまな「マニュアル本」が後に続いてそれこそ雨後の筍のようにたくさん出版され、マニュアル本ブームとなったのでした。当時のおじさんがなぜその本を手に取ったか。理由はいくつかあります。

完全自殺マニュアル

完全自殺マニュアル

  • 作者:鶴見 済
  • 発売日: 1993/07/01
  • メディア: 単行本
 

おじさんがもともと中二病的と言いますか、タナトスに惹かれる傾向にあったということ、いくらか以前から調べていた「人間を確実に死なせる方法」について書かれたものであること、そして、おじさん自身が死を望んでいたことです。

自殺企途

やることなすことが巧く行かず、頭ぐるぐるで気が休まる場所がない。そんな状況が半年も続けば、うつ病を発症するには理由は充分です。幼い頃には既にその傾向があった上に抑圧と低迷が続けば、おじさんでなくても正気ではなくなるでしょう。

ただ、正気をなくした状態というのは、一見してわかりづらいものです。世間の人は正気ではない人=狂人=暴れて刃物等を振りまわす人、のような昔々の映像作品に登場した「異常者」のイメージを持っていますが、それは甚だ極端な例です。

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狂気のはじまりは正気にとても似ているので、周囲の人たちも「いつもと違う様子」というくらいのことしか気がつかず、それも「そう言えばあのとき……」といった気づき方をするのです。

真の狂気というものは当人にとって狂気ではないという確信があるものですが、このときのおじさんには病識がありました。だから自主的に精神科で受診して処方された薬を服んでいましたが改善は見られず、さらにぐるぐるスパイラルに陥っていきます。

そういった経緯と『完全自殺マニュアル』との出会いとが相俟って、死への意識が高まったのです。

確実な死のために必要なもの

当時もいまもそうなのですが、おじさんは死の経験がありません。つまりノウハウもない訳で、知識も技術も持たない分野にそれを求めるなら、先達か書物に頼らねばなりません。

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死に成功した先達はみなこの世にはおらず弟子入りも叶いませんので、頼れるのは書物だけです。といった訳で『完全自殺マニュアル』を熟読するに至ります。

高所からの投身。鉄道への投身。断崖絶壁からの海への投身。家庭用電源を利用した感電。首吊り。刃物等凶器の使用。さまざまな死を得る方法と、そのための準備と手順が『完全自殺マニュアル』には書かれていました。その中で私が最も自分に向いていると思ったのは、薬物を使用する方法でした。

既にお分かりのことと思いますが、自殺というのは失敗できません。必ず身体のどこかを損傷してしまう行為ですから、半端に死に損ねると自殺以前よりもつらく苦しい状況に陥りますし、身体が不自由になった分、再び自殺を企てるのも難しくなります。

自殺は、確実な死が用意できないのであれば、してはいけないのです。

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次回はおじさんが確実な死を目指して選んだ手段についてお話ししましょう。現在おじさんが生きているのは自死に失敗したからでしょうか、自死を選ばなかったからなのでしょうか。

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