おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

かたちに残る仕事〔個人史31〕

ごきげんよう、割りと元気な病人のおじさんです。

前回は、若かりし頃のおじさんが運の巡りに恵まれず、自殺企途をしたというお話をしました。人間というのはかんたんには死なないようにできているのですね。だからこそおじさんは自殺を果たした人はすごいと思うし、苦痛と努力の末に望みを果たせたのだから「おめでとう」を言わねばならないのだと思います。

だって、この世は苦しみだらけだから。人は生まれた途端に8つの苦しみを死の瞬間まで背負うのだから。この世に生まれるのは修行が足りないからで、修行をまっとうした人は輪廻の輪を抜け出し、二度と生まれてきません。これを「解脱」と言うのです。

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おじさんも二度と生まれて来ないようにしたいし、今生においても「あの日に帰りたい」とか「あのときからやり直したい」とか全然思わないです。

こう言うと「おじさんて人はこの世でいいことがなかったんだね」と思う人もおられるかと思いますが、かようにペシミスティックなおじさんにもうれしいことはいくつかあったんですよ。

そのひとつをお話ししておきましょう。これまでお話ししてきた中でも最も現在に近いお話です。

ヲタクでよかった

このブログでも何度か言っていたかと思うのですが、おじさんはヲタクです。2次元と言うか、「物語」を伴うものが好きなのです。だから、小説、漫画、映画、落語、舞台劇などなど、そういったものはみんな好きです。

そのうちでも好きで知識もいくらかあって手許にたくさん置いているもの、というと漫画です。ヲタクであるおかげで、漫画についての記事を書くという仕事をするようにもなりました。

その仕事をはじめた頃、ひとつの企画が通って、記事を書きました。2017年のことです。

おじさんはこの三浦靖冬さんという人の漫画がとても好きで、会う人会う人にプレゼンテーションしていたのですが、その気持ちが高じて仕事で三浦さんの作品を紹介する記事を書くという仕事をすることになりました。

上の引用記事がその記事なのですが、これを書いたことが時間差でおじさんのその後に影響を及ぼします。2020年のことに、ある方面から「『薄花少女』第5巻発売を記念して『三浦靖冬原画展』を開催するので、その図録に掲載する記事を書いてほしい」というご依頼をいただくに至ったのです。

薄花少女』という作品は三浦さんの作品の中でも人気作ですが、諸事情が重なった結果、最終巻である第5巻だけが電子版のみの発売となってしまいました。しかし、紙の本を望む声は多く、私家版としてまとめ、発売することになりました。

『原画展』はそれに伴うもので、図録とは展覧会等ではほぼ必ず会場で販売される、展示作品の図版や解説が収録された冊子のことです。今般のご依頼は、この図録に収録する作品及び「三浦靖冬」という作家についての解説文を書く、ということです。

このご依頼というのが、おじさんが書いた記事(上の引用記事)を三浦さんご自身がお読みくださったことがきっかけのひとつであったとのことで、ご本人に届くとは思ってもみず、ご依頼メールを受け取ったときは舞い上がって手足ばたばたしてしまいました。

ヲタク故に企画・執筆した・できた記事をきっかけに、記事テーマとして取り上げた大好きな作家さんの仕事をお受けできたというのは、ヲタク冥利に尽きるというものです。ヲタクでよかった。

今生一代の仕事

三浦さんの作品及びご本人についての文章を書くに当たり、ご本人に取材する必要があった訳ですが、メールによる取材ですが大量の質問に回答せねばならず、三浦さんにおかれてはご自身の原画展開催前のご多忙なところにずいぶんお手間だったことと思います。

それにもかかわらず、やり取りは一度二度では済まなかったというのに、何れのときも迅速丁寧にご回答くださったので、図録用解説文の執筆は速やかに遅滞なく進み、締切よりも早くに書き上がりました。

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書き上げた文章は図録に掲載され、『原画展』会場及び通信販売で多くの三浦ファンの手許に届きました。SNSには『原画展』に赴いて購入くださった人、通販で購入くださった人、それぞれに解説文へのご感想の投稿があり、ひとつひとつをうれしい拝読したものです。

さらに有難いことにおじさんが書いたものは記名記事としていただくことができ、記事とおくづけにはおじさんの筆名が記されております。実を言うと、これが現在のところ、ライターとしてのおじさんの、唯一の「紙に残る」仕事です。

憧れた作家本人に取材してその人のことを書くという光栄に浴し、さらには図録というとても大切に残してもらえる媒体に掲載するものを書かせてもらえたというのは、おじさんにとってこれ以上はない経験です。

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おじさんはもう半世紀を生きました。これよりしあわせなことはきっともう起こらない。それ故いつ死すとも構わないという気持ちでおります。最早や今生に悔いはございません。

ちなみに、の話ですが、『三浦靖冬原画展』が開かれたヴァニラ画廊は「攻めた」展示をたくさんなさるところで、他所ではなかなか見ることがないおもしろいテーマの展示も多いです。性・ジェンダーに踏み込む展示もあり、みなさんご存じ田亀源五郎さんや石原豪人林月光)さんのアートを観られる貴重な場でもありました。

また、『三浦靖冬原画展図録』、『薄花少女』の装丁を手掛けられたchutteさんは古屋兎丸作品を中心に数多くの魅力的な本を生み出すブックデザイナーです。『薄花少女』と『原画展図録』はカバーに同じ紙を使用していて、手ざわりがとても気持ちいいです。一度は手に取っていただきたい書籍です。

半ば宣伝のようになりましたが、終わった瞬間に忘れ去らざるを得ないような小さな仕事をたくさん重ねてきたおじさんの、忘れることがないだろう仕事のお話です。

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