おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

おじさんに局所麻酔は(ほとんど)効かなかった

ごきげんよう、仕事柄、付箋の消費量がめちゃくちゃ多いおじさんです。

前回は乳房切除術、つまりおっぱいを切り取る手術を受けるおじさんが、いよいよ手術台に寝て、おっぱいの周囲に麻酔注射をいくつもいくつも射たれるところで終わっていました。

今回は、レーザーメスでおっぱいを切開するところからです。

おっぱいを切り取る手術の方法

一口に「おっぱいを切る」と言っても、方法はひとつだけではありません。乳輪を一旦くるりと切り離して、空いた部分から乳腺だの脂肪だのの「おっぱいの中身」を取り出して、その後もう一度乳輪を縫いつける方法や、乳輪の下にU字型の切り込みを入れてそこから中身を出す方法、同じように乳輪の下にT字型に切り込みを入れる方法なんてのがあります。

こういった乳輪周辺にメスを入れる方法だと切り込みが小さくて済むので、傷の治りも早く、身体への負担も少なくて済みます。2000年代以降はこちらの術式がスタンダードになりました。が、おじさんが手術を受けたのはその直前辺りだったんですな。

だからという訳でもないんだけども、おじさんが受けた手術は「乳房の下」にU字型の切り込みを入れてそこから中身を出す方法でした。下乳に沿って切開するということです。

 

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上の図の赤い線のように切り開くために、おおよそ同じ辺りに麻酔注射をちっくんちっくんと何本も射って、さてその後、執刀医がレーザーメスでおじさんの胸にさわりました。

レーザーメスでさわったら切れます。切れたら当然痛いです。執刀医が「痛い?」と訊くのでおじさんは「痛いですっ!」と半ば叫びました。すると執刀医がひとりごちたんです。

「おかしいなあ」

おかしくないよ、切れたら痛いんだよ! まだ麻酔が効いてないんだよ!

しかし執刀医は「そのうち効いてくるからね」と言って切開を続けました。

活け造りか!

麻酔が効いていないのにおじさんは胸を切開されたのです。U字と言うか、半円状に乳房の下辺を切って、ぺろんと乳房をめくって、乳腺だの脂肪だのという「おっぱいの中身」を取り出します。引っぱり出して、はさみでチョキチョキ切ります。

切られる痛みがわかるくらいだから、おっぱいの中身を引っぱられている感覚ももちろんあります。はさみで切られる痛みもあります。「生きながらに身を切られる」を実体験しました。

「痛い」と言い続けたので麻酔を追加してくれていたようでしたが、手術の間中ずっと痛かったです。どれくらい痛かったかって、足の上に30kgの重りが乗っていなかったら、両腕が手術台に縛りつけられていなかったら、きっと痛みに耐えきれず暴れていたでしょう。ということが想像に難くないくらいには痛かったです。

痛くて腕にも肩にも力が入っていて、手術の翌日には僧帽筋(肩の筋肉)が筋肉痛になりました。後にも先にもそんなところが筋肉痛になったのはこのときだけです。

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みなさん、こんなところ筋肉痛になったことあります? 

眠ってもいなければ死んでもいないし麻痺もしていない状態で切開されたり切除されたりって、おじさんの活け造りかよ!

されてる方はオニのよーに痛くて苦しいから、活け造りとか躍り食いとか地獄焼きとか、今後絶対しないと思いました。

日帰り手術

手術に要したのは1時間前後で手術は日帰り、入院なしでOK。

のはずでしたが、「通常の3倍」の量の麻酔を使ったのだそうで、覚めるまで病室で寝てなさいと言われて小一時間横になっていました。

覚めるまでも何も、縫合が終わるまでずーっと麻酔が効かなくて痛いまんまでした。

だもんで、ずっと腕も肩も力ませて、歯を噛み合わせていて、それが1時間も続いたので、確かに頭がくらくらしていました。それが落ち着く頃に病院に申し出て、「もう少し寝ていきなさい」と言われつつも帰途に就いたのでした。

徒歩で帰ったのですが、自分の一歩一歩が怖ろしかったことを憶えています。一歩踏み出す、その振動だけで縫合した胸の術創が開いてしまいそうで、とても怖かったのです。そっと、そーっと、ゆっくり歩いて帰りました。秒速5センチメートルくらいだったんじゃないかな。