おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

身動きできずにいのちの電話〔個人史15〕

ごきげんよう、食事はきちんと摂っているのにいつもお腹が空いているおじさんです。

前回までお話ししていたのは、目は覚めているのに身体を起こせなくなったというお話。仕事に行かなければならないのに身体が動かない!仕事に行かなければ給料がもらえなくて、家賃も払えないぞ。どうするおじさん? どうする!

動けない朝

朝、目が覚めると何となくゆううつで、それでも仕事は行かなければならないし行くつもりなので、起き上がろうとしました。が、起き上がれません。

みなさんは仰向けに寝ている姿勢から起き上がるとき、どんな風にしますか。まず横向きになるよう寝返りを打ちますか。それとも、そのまま正面に身体を起こしますか。いずれにせよ、上体を起こすにはまずはお腹に力を入れなければなりません。「んっ」と一瞬、腹筋に力を込めますね?

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その「んっ」という集中ができない。力が入らない。じわじわ動こうにも身体全体に鉛の毛布がかかっているかのようで、重くて動けない。こういう次第で、起き上がれないのです。

起き上がれないとどうなるかと言うと、仕事に行けません。とにかく起き上がらないと仕事には行けない、しかし起き上がれないなら、これはもう休むしかありません。取り敢えずは始業前に「休みます」という届出をしなければ現場の人に迷惑がかかります。

しかし、床と固定電話は少なくとも5歩は離れている。時は2000年。移動式電話は既に登場していましたが、まだ固定電話の方が主流で信用があった頃(余談ですが、当時の求人には携帯電話のみの人お断り案件が結構あったのです)。

さいわいなるかな、おじさんはこの頃PHSユーザでした。携帯電話を持つほど裕福ではなかったのでPHSは有難かった。携帯電話は端末も通話料も高額で、学生やプアな人はPHSかポケベルを持っていた時代です。たった20年前なのになあ。

腕や脚も重くて持ち上がらないけど、床の上をすべらせることは何とかできたので、寝所のそばに置いてあったPHSを取り、会社に電話をかけました。声を出すことができたのがさいわい。動けない声も出ないとあっては誰かに助けを求めることもできません。

いのちの電話

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欠勤の届出をしたのはいいが、後はどうすればいいだろう。て、どうしようもないのだけど。動ければ医者に行くのだけど。おじさんには心当たりがありました。この頃、おじさんは既にうつ病の診断を受けていて、数週間前から気が重くなったり身体が動きづらかったりしていて、主治医に相談していたのです。

主治医は「あなたは仕事へ行けるから、行きなさい」と言うばかりで、以前と同じ投薬を続けました。その言葉に従って服薬しつつ仕事していたのですが、とうとうまったく動けなくなったのでした。

動けないものはどうにもなりませんので、ずっと寝たままです。午を過ぎ、夕方になり、日没を迎える頃、ようやく身体を起こすことができるようになりました。そして深夜には普通に動けるようになったので、明日は出勤できるだろうとおじさん自身が思ったのです。

しかし翌朝。同じように鉛の毛布を被っている状態です。これが3日4日と続きまして、いよいよおじさんは怖ろしくなってきました。欠勤は即ち欠金です。生活費がなくなっていくのです。生活の危機。もしかしたら生命の危機。お金がないと生活できないし生活できないと生きていくこともできません。

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身体が重怠くなるとか目眩がするとか、そんなことはうつ者にはよくあることです。人によってはお腹が痛くなったり関節が痛くなったりもあるようです。こういった症状を「甘え」と言ってしまう人が割りとたくさんいるんですが、甘えたら痛くなったり怠くなったりするなら甘えたりしないっつーの。痛いのも怠いのもしんどいんだから。仕事に行けないのもちょー困るんだから。

そういった厄介な症状が出るうつ病を緩和させるために、今度は主治医ではない別の医者に相談したいのですが、そうするためには新たに病院へ行かなければなりません。しかし初診の精神科へ行くには明るいうちに動けなければなりません。それができるなら仕事にも行っているでしょう。

どうすればいいの。

うつ病ほか精神疾患はだいたいが思考能力を半減させてくれるので、ものも碌々考えられません。3日目だか4日目だかの午前中、欠勤届の電話をしたおじさんは「いのちの電話」に相談してみました。動けないので仕事にも病院にも行けません、どうすればいいでしょう。「いのちの電話」のお姉さんはこう答えてくれました。

「病院へ行ってください」

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いや、病院に行けなくて困ってるんだよおおお!

身体が動かなくて病院にも行けないんです、と繰り返すと「いのちの電話」のお姉さんも繰り返します。「病院へ行ってください」。この言葉を3回聞いて、おじさんは電話を切りました。とほほ。

(「いのちの電話」の名誉のために付け加えておきます。現在の「いのちの電話」は相談員養成講座を開いてきちんと相談員の研修をしているので、こんな対応はないそうです)

ようやく病院へ行く

1週間ほども欠勤してしまったでしょうか。毎日動けないのだから毎日休むしかありません。そして日没頃から少しずつ動けるようになって、「明日は大丈夫かも」と思うのも同じです。しかし明日はいつも大丈夫ではなかった。

が、数日して、日没よりも早い時間に動き出せる日がありました。「いまだ!」とばかりに病院へ行きました。今度はそれまで通っていた病院ではなく、友人が通っていて「ここの先生はいいよ」と行っていた病院です。

はじめての病院でおじさんはどのような診断を受けたのでしょうか。乞う次巻。

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