おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

歯科医と葬儀〔個人史23〕

ごきげんよう、コンビニのお手拭きが自宅にどんどんたまっていくおじさんです。

前回は、再々入院したときのお話を手短かにしました。「歩いてた」というのと、「ワールドカップの日本の試合開始を看護師が知らせに来た」というお話ね。日韓共催ワールドカップの年(2002年)におじさんは入院していたのですな。

さて、同じ年。おじさんが退院してすぐに実父が亡くなりました。その辺りのお話を今回はしましょう、と言っていたのですが、先にひとつだけ、忘れないうちに違うお話をしておきますね。歯科医の話です。

見知らぬ歯科医にリードされるのこと

実はおじさんの精神科入院はこれにておしまいではなく、この後も短い入院を何度か繰り返します。短い入院のためたいしたエピソードもないのでその頃の話は割愛しますが、おもしろい話があるひとつので、これだけお話ししておきます。

入院中に、歯が痛くなったことがありました。虫歯です。頭と腹と歯が痛いのは我慢できるものではありません。入院していた病院は総合病院ではないので歯科はありません。許可をもらって、病院近所の個人医にしばらく通うことになりました。

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はじめての通院日。問診票を書きました。その頃のおじさんは既に男性として生活していて、男子病棟に入院しておりましたが、戸籍はまだ生まれたときのままでした。が、歯科医なら別に告知しなくてもいいだろと思って、問診票の性別欄は「男」に○をつけておきました。

そして診察。どの歯が痛いということは問診票に書き込んではいますが、取り敢えず歯科医はすべての歯を確認します。で、奥歯を見ているときに、歯科医がぼそりと呟いたのです。

「お姉さんやったんか……」

ワタシ何も言ってませんが。付き添いもおりませんから、おじさんのことを知っている人はその場にはおじさんしかおりません。即ちこの場には、おじさんが生まれたときに判定された性別を知っている人はおじさんだけだし、おじさんはそのことを1ミリも口に出していません。

でも歯科医はおじさんの生まれの性をリードしてしまいました。歯。歯なのですね。歯を見たらわかるんですね。詳しいことは聞けませんでしたが、見る人が見たら歯のかたちか並びか何かで生物学的性がわかってしまうんですね。はー知らんかった。

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という経験でした。後にも先にも歯を見て性別を指摘されたのはこのときだけです。つーか、おじさんがリードされた経験というのがこれ1回きりです。

実は実は、このブログを書いているただいま現在も歯科医に通院中ですが、現在の主治医には何も言われておりません。きっと、思っても口に出さない医者の方が多いんでしょな。……口からぽろッと出ちゃったんだろね。

父の葬儀

さて、お話はガラッと変わります。前回のおしまいに予告しました、おじさんの父の訃報のお話です。前回もちらりと申しましたが、おじさんは個人史を語る上でこれまで父のことはほとんど述べてきませんでした。

機会がなかったのも理由ではありますが、あまり書かない方がいいという気持ちもありました。おじさんはものごころついた頃から父が心底嫌いで、父のことを書くなら厭な言葉をたくさん連ねるだろうということが容易に予想できたのです。

だから、父が亡くなったと連絡を受けたときも「やっと死んだか」くらいのことしか思いませんでした。10年か20年前ならバンザイしていたかもしれませんけども。

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それくらい厭な存在なのですが、現在のおじさんを形成する上で確実に影響しているだろうということは、おじさん自身も思っておりますのでね、語っておくべきなのかもしれません。

その死に当たり、ひとつの経験がありましたので、そのお話をまずはしましょう。

前回の退院の際に担当医を通して家族にカミングアウトをしたおじさんでしたが、父の葬儀はそれからはじめての一家公式行事です。

実はこの5年くらい前、おじさんがまだ実家暮らしで世を忍ぶ仮の女性として生活していたとき、父は余命宣告を受けました。もともと若い頃から糖尿病を抱えていて、それを端に腎臓病を発して、さらにヘビースモーカーだったので肺癌を発症。この頃はまだ父は自力で活動できていましたが、余命宣告が出たとあってはそれなりの準備をしておかねばなりません。

というので、母が私を連れて喪服を買いに行ったのです。そのときに女性用の喪服を買って、ずっと新品のまま収い込んでいました。しかし、おじさんはこの喪服を着ることがありませんでした。何故なら、父の葬儀ではこの喪服を姉が着たからです。若い頃よりサイズアップした姉は、自分の喪服を着ることができなかったらしいです。

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では、おじさんはどうしたかというと、斎場で借りました。ダブルのスーツです。男物です。母がそのようにしなさいと言いました。

遺族ですので葬儀の際には葬儀場の入口に立って弔問客を迎えるという仕事があるのですが、おじさんは父の葬儀ではじめて血縁者らの前に男性として立ったのです。もともとは三女でしたが、次男扱いです(長男はいたのですが、おじさんが生まれる前に亡くなっています)。

葬儀や、あるいは結婚式などの冠婚葬祭の席は、親戚等血縁者へのカミングアウトのいい機会です。公式の場ですし、性的マイノリティに偏見がある親戚などがいたとしても、特に葬儀では家族を亡くして消沈している(はずの)遺族に対して、わざわざ厭なことを言いに来る人でなしも滅多にないでしょう。文句を言わせぬカミングアウトの場として冠婚葬祭も使いようです。

このような次第でおじさんは公的に男性デビューしました。

というところで、区切りがいいので一旦おしまい。続きは次回。ででん。

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