おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

前しか見えないときが誰にもある〔個人史18〕

ごきげんよう、芸術家で女優のぬゅぬゅゅゆゅゅゅゅゅさんが芸人時代に名乗っていらっしゃった「バターぬりえ」という名前がとても好きなおじさんです。

突然身体が動かなくなって、何とか病院に行ったら「即入院」と言われて、入院したら女子部屋に入れられました。我慢しようとしたけどできなくて、担当看護師に訴えたら翌朝に数名の看護師がよってたかって病室移動させてくれました。

というところまで、ようやくお話しできました。間にあっちこっち話題が飛んでごめんなさいね。本日は、女子部屋から男子部屋に移ってだいじょぶなのか、というお話を。

おじさん、大移動

病院側も性同一性障害当事者を入院させた経験がなかったのか少なかったのか、外見だけだとまず女性だと判断されることがなかろうおじさんを女子部屋に入院させる判断をしました。

ときは西暦2000年、性同一性障害特例法が成立する3年も前の話ですから、仕方がないのかもしれません。おじさん自身、「仕方がないか」と思って我慢しようとしていましたしね。しかし、うつ病患者に我慢させてはいけませんな。我慢とは即ち抑圧ですから。

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たった3日ほどでしたがおじさんは女子部屋に耐えかねて、その旨を看護師に訴えました。そしてその夜眠って、目が覚めるより先に看護師の一団がやってきて「移動しまーす」と荷物を運びシーツを剥がし、隣りの男子部屋へと大移動。隣りの部屋のベッドには瞬く間にシーツが張られ、荷物が収められ、「以前からここにいました」という風体が仕上がりました。

それはまるで、『8時だヨ!全員集合』のコントが終わって岩崎宏美さんが『ロマンス』を歌い出すまでの僅かな時間での場面転換に似て……(たとえが古すぎ)。実に短時間に、迅速に、確実に。かくして、おじさんは男子部屋の住人となったのです。

この頃の病棟というのはひとつのコミュニティ、町と言ってよかった。というのも、当時はまだ長期入院が可能で、10年入院しているという人もめずらしくはなかったのです。だからおじさんは古い町に新しく越してきた住人みたいな、3学期頃に転校してきた生徒みたいな、関心の的でもあった訳です。

病棟内の人はこの間新しく入院してきた人が女子部屋に入ったことは知っているはずです。なのに、いつの間にか男子部屋の住人になっていることをおかしく思わないだろか。思うだけならいいとして、それを直接問われたらどのように答えればいいんだろか。

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うつ状態でぐったりしていたとはいえ、このときのおじさんにもその不安は感じられたのです。いや、うつ状態だからこそ不安を感じやすいのですねえ。うつは不安を見つけ出すのが上手です。

どうすればいいかわからないことは外部に頼るのがよろしいです。わからないことをいつまでも考えていても「どうしようどうしよう」と不安が増すばかりです。できないことはできる人にやってもらうのが吉。ということを、おじさんはこのときに学びました。それまでは何でも自分一人でやろうとする人だったのですね。

みんな他人が見えてないから

果たして、看護師詰所(今風に言うとナースステーション)に行って、その不安を訴えてみました。相手は担当看護師K氏。

聞いた話はこんな感じです。精神科に入院している人はみんな精神面に疲労が蓄積してしんどくなっている人ですから、他人のことなんて気にしている場合じゃないし気にしていない人がほとんどなんです。自分のことでいっぱいいっぱいなんです。だから、おじさんが部屋を移ったことなんて気がついていない人だっているかもしれない。

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ということで、「気にすんなヨ」というお話。もしも訊ねられたら「入院時には空いているベッドがなかったので一時的に女子部屋に入っていました」てなことを言っておけばいいんじゃない?というご意見でした。

「それでええんかいな」と思う人もおられるでしょうが、このときのおじさんには納得できる話だったので、とりあえず安心しました。これを訊ねてきた人が1人いましたが、実際に上記のようなことを答えると、納得してはいなさそうでしたがそれ以上の追及はありませんでした。のちに「あれ絶対うそやで」という話をしているのは小耳に挟みましたが、おじさん自身が問い詰められることはありませんでした。

誰かが「うそやで」と言ったところで事実がうそになる訳でもないし、うそが事実になることもない。言いたいことは言いたくて言っているのでしょうから、言わせて差し上げればよろしいのです。自分ではない人が言いたくて言うことを「我慢しなさい」とか「言っちゃ駄目」なんて言う権利はおじさんにはございませんでな。

言い切れば突っ込まれない

ここからは閑話で、しかも性別二元論の話になってしまいますが、性別移行中のトランスジェンダーの性別についても似たようなものです。「男性か女性か」てことを本人に訊ねてくる人はとても少なく、訊ねてきても自認の性を答えておけばそれ以上追及してくる人はほとんどいません。

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たとえば答えた性別が「本当かどうか」と詰め寄る人は現れるかもしれませんが、「戸籍謄本見せろ」とか「性器を見せろ」とか、そこまで言う人の話は聞いたことがありません。だから、あとは本人がどれだけ自認の性を自信を持って断言できるかだと思います。自信を持って言い切ると間違ったことでも通ったりするので、言い切るというのは大事です。

さて、閑話休題。入院する際の厄介ごととその解決をお話ししましたが、入院の際に厄介になることがもうひとつあります。風呂です。入浴。長期の入院でしたから、風呂に入らない訳にはいかなかったのですが、そこもご配慮いただけました。次回はそのお話をしましょう。

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