おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

アルバイトで学んだこと〔個人史13〕

ごきげんよう、「眼鏡を外すと目が数字の『3』になる人」になってみたいおじさんです。

前々々回の予告を前回で果たすという周回遅れの展開で前回は仕分けアルバイトの面接のお話をしました。というこの一文は多めに押韻していてラップのようでいいでしょ?

秋の終わり頃にはじめたアルバイトは年末の忙しさを視野に入れたものだったんですよね。いまでもネコマークの運送屋さんの12月はオニのよーに忙しいのです。その運送屋さんで経験したことをお話ししましょう。

プレ手のひらターン

世を忍ぶ仮の女性として日勤した後、男性としてアルバイトに出るという生活がはじまりました。このとき、おじさんははじめてまったく男性として人前に出るという経験をしたのです。

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それまでは窮めて男性風の、それでも女性だった訳です。おじさん自身がやってることというのは特に変化はないのですが、周囲の人のおじさんに対しての行動が大きく変わってくるのです。

お話が前後しますが、以前このブログでもお話しした工場での手のひらターンエピソードのように、自分自身が同じでも、周囲の人たちが捉え方によってコロッと態度を変えて接してくることというのは、割りと多くあるのですね。ネコマークの職場でも似たことがありました。

男性として経験がはじまる

ともあれ、おじさんは男性として採用されました。男性として働きはじめることになります。工場での手のひらターンの経験よりも、5~6年前のお話です。

基本的にこの会社には制服があるのですが、試用期間ということもあり、最初は私服のまま就業していました。本業の織物会社での服装のまま、こちらでも働くということです。

同じようにアルバイトに入った人がもう一人いました。当時まだ何とかおじさんではなかったおじさんよりも15歳くらい年長かな、というくらいのおじさんです。もともと個人で運送業を営んでいる人ですが、仕事が少なくなってきたのでアルバイトに来たのだとか。平成不況の只中だったので、この人のような人はいくらもいたのです。

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この同僚のおじさんを仮にMさんとしましょう。Mさんは小柄でしたが、運送業をしているだけあって体力・腕力と小荷物を扱う技術がある人でした。何より、ガテン系の男性にありがちな乱暴さのない人で、おじさん(筆者)は親しみやすかったのです。

Mさんは自分よりも非力なおじさんを馬鹿にすることはなく、コンテナの上段に荷物を上げようとしてなかなか上がらないおじさんに手を貸してくれたり、働きだした頃が年末の寒い頃だったので、自動販売機で温かい飲みものを買ってくれたり、「おじさんくん(仮名)」と呼んでかわいがってくれました。だからおじさんはアルバイトに行くのが結構楽しかったです。

これまでの当ブログを読んできてくださったみなさんはおわかりのことと思いますが、おじさんは仕事の内容よりも職場の対人関係で仕事が続いたりすぐ辞めたりが決まってしまう人です。そのおじさんが試用期間をまっとうしたのですから、Mさんとは良好な関係が築けていたと言えるでしょう。

また、集荷してくるドライバーのみなさんも、すっかり「男の子」として扱ってくれて、散髪した翌日の勤務などは「男前が上がったな!」などと声をかけてくれてました。男性として集団の中にいるというのはこういうことなのだなあ、なんて思って、とても居心地がよかったです。

ここにも制服の壁

さて、試用期間が終わる頃。年末年始の繁忙期が過ぎた頃でもあります。制服が貸与されました。当時のネコマーク社の制服は、男女ほぼ同型だったのですが、しかし「男性用」と「女性用」があり、おじさんは「女性用」を渡されてしまったのでした。

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一度は返却したものの、担当者にはよくわからないことがらだったらしく、その点はやがてうやむやに。面接担当者かつ事業所の責任者である支店長はいつも不在で、どこに不備不便を訴えていいやら。結局のところ、制服は支給されるものの着ても着なくてもいいものだったらしく、おじさんもMさんも着ませんでした。

そうこうしていると、Mさんの様子が何だか変だ。何だかおじさんへの態度がぎこちないなあ、と思っていたら、Mさんはおじさんを呼ぶときにこんな風に言いました。

「おじさん……さん」

ああ、おじさんの秘密が洩れている。ま、そうですわな。女性用の制服がおじさんに渡されたということは、事務所の人たちはおじさんを女性と認識して、それを共有していたのでしょうから。共有するってことは、当然洩れる訳です。

しかし、Mさんには何の罪もない。いまのおじさんならことの次第を簡潔に話し、Mさんを諭すってこともできますが、当時のおじさんは半パニックです。予想し得たこととは言え、はじめての経験ですから。

 パニック起こしたままでどうしていいかわからなくて、女性扱いされていることがたまらなく厭で、その後3回くらい出勤したもののとても居づらくて、ネコマーク社のアルバイトは辞めてしまいました。

学んだこと

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このアルバイトでおじさんが学んだことは、

  • 履歴書には戸籍上の性別を書く必要はない
  • 秘密にしたいことは自分以外の人に決して伝えてはいけない

この2点です。

履歴書に戸籍とは異なる性別を記載したとして、罪に問われることはほぼありません。問われるとしても「私文書偽造(判コ押した場合は「有印私文書偽造」)」程度で、いきなり逮捕・収監されることはありません。

また、おじさんがこの経験をした頃よりもトランスジェンダー性同一性障害の存在や権利について知見のある人も増えていて、相談窓口もあったりするので、当時よりも更に逮捕・収監のリスクは減っているはずです。

また、秘密については上記した通りで、「ここだけの話」は絶対に「ここだけ」で収まらないのです。誰にも知られたくないことは誰にも話してはいけません。

という教訓を得て、はじめての自認の性としてのアルバイトは終幕であります。トコトコトン。

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