おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

スポーツ刈りと坊主とバイト〔個人史12〕

ごきげんよう、読みたい本がどんどん見つかって人生の残り時間が足りないおじさんです。

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さて、前回はアルバイトに出ることにしたお話をしようと予定しつつ、性ホルモン剤による身体の変化(主に毛について)のお話をしてしまいました。今回こそアルバイトのお話です。

しかしその前に、下準備として髪型のお話を少ししておきますね。では、はじまりはじまりー。

ちょっとおさらい

このブログでもいくらか以前に髪型についてのお話をしましたね。憶えておいでですか? 

この回では、ロングだのパーマだのを経由して、結局おじさんの髪型はベリーショートに落ち着きました、というお話をしました。1997年、おじさん27歳の年までそれは続いたのですが、その初夏にスポーツ刈りにしたのです。

このときの顛末は前々回にお話ししました。同じ人が同じ髪型に整えてもらうのに男性として来店するのと女性として来店するのとで料金が変わるんですよ、というお話でした。

今回のお話は、これに続くお話です。スポーツ刈りにしたその後のお話。

スポーツ刈りと坊主の間には

1997年と言えば、PlayStation版『ファイナルファンタジーⅦ』が発売され、アニメ『ポケットモンスター』放送開始、劇場版『名探偵コナン』第1作『時計じかけの摩天楼』公開、そしてX JAPAN解散の年です。

この年、おじさんはまだ世を忍ぶ仮の女性として織物工場の事務所にいました。肩書きは事務員でしたが、フォークリフトに乗って倉庫管理などもしていました。後々に会社の人に聞いた話によると、仕事内容は男性向けのものだったそうな。

ややこしいようですが、男性のような服装で男性の仕事をしていた女性として勤めていた訳ですが、その人がある日突然スポーツ刈りになって会社に現れます。おじさんも何の予告もなしにその髪型にしたので、会社の人も知らなかった訳です。

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会社の人たちは、男性も女性も何も言いませんでした。出入りの運送屋さんたちも、何も言いませんでした。

その後。

おじさんはその頃既に性別適合手術を受けることを視野に入れていましたので、とにかく貯金をしようとケチケチしていました。だから、髪が伸びてきて散髪の必要が出てきた頃に思ったのです。スポーツ刈りなら家庭用バリカンを使って自分で調髪できるんじゃね?

そこで、やってみました。するとですね、髪を四角く刈るというのは思いのほか難しく手ですね、「あー…」、「ああー!」などと声を上げつつ、あちらこちらのつじつまを合わせようと長さを整えているうちにどんどん短くなってですね……ついにどうにもならない長さになってしまったのです。

どうにもならなければどうするか。丸刈りにするしかありません。という訳で、おじさんは長さ3mmくらいの丸坊主になりました。当然、その髪型で出社することになります。

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すると。出入りの運送屋さんたちが「おー、どうした。出家したんかー?」などと声をかけてくれるではありませんか。社内の人も「何でその頭にしたん?」と訊いてくれました。おじさんは正直に「自分で刈ってて失敗しました」と答えながら、思いました。

スポーツ刈りと丸坊主の間には、いったい何があるのだろうか。

髪の長さとしては両者はたいして変わりません。しかし、はじめてスポーツ刈りで出社したときもその後も、誰も何も言いませんでした。当時のおじさんはまだ実家暮らしでしたが、家族も何も言いませんでした。

しかし、丸坊主になった途端に会社の人も出入りの運送屋さんも、おじさんの髪型に言及しだしたのです。家族は何も言わなかったけど。

スポーツ刈りと丸坊主の間には、いったい何があるのだろうか。いまだにわからないままです。

余計なこと言った面接

そうした過程を経て「餅は餅屋」という言葉の意味を深く理解したおじさんは、再び理髪店のお世話になりながらスポーツ刈りをキープ。その状態でアルバイトの面接に行きました。

週に2回、会社を定時で終えた後に2時間という短時間バイト。ネコのマークの運送屋さんで、荷物の仕分けの仕事です。この頃おじさんは10kg程度でしたがダンベルを使って体操をしていたので、小荷物の仕分けならできそうだと思って応募したのでした。

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このとき、おじさんは生まれてはじめて、履歴書の性別欄の「男」に○印をつけて面接に臨んだのです。そのまま何も言わなければいいのに、「実は性同一性障害で……」てなことを(まだ診断も受けていないのに)わざわざ面接で言ってしまったのですな。

「パス」と「リード」というのを、読者のみなさんは聞いたことがあるでしょうか。トランスジェンダー性同一性障害当事者の間ではたびたび聞く言葉です。「パス」は周囲の人に自認の性として認識されること、「リード」は生まれたときに判定された性として認識されること、と言えばいいのでしょうか。

おじさんの場合だと、「パス」は「他者から男性だと見られて女性だとは思われないこと」、「リード」は「あっ、こいつは女性だぞ」と思われること、です。前にも述べましたように、おじさんはこの頃には公共施設のトイレなんかは男性用を使うようになっていて、うっかり女性用には入れない状況でしたから、リードされる心配なんてしなくてよかったのですが。

それでも何か心配になっちゃったんでしょうね。リードされたら……って。それで多分、わざわざ「自分は性同一性障害で……」なんて言い出したのだと思います。

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面接の方は「ああ、そうですか」と聞き入れてもらえて、そのまま採用となりました。ホルモン注射をしてくれる病院を探すときにずいぶん奇妙なもの扱いされましたから、面接も半分は駄目かもしれないと考えていたのですが、埼玉医大の記者会見から1年経つとこんなに浸透するかなー、という驚きがありました。

このような次第を経ておじさんは、これまた生まれてはじめて「男性として」働くことになるのでした。さて、このアルバイトはおじさんにとってどのようなものだったかと言うと――。

というお話を、次回はいたしましょう。楽しかったんだけどなー、というお話。次回もお楽しみに。

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