おじさんがおじさんになるまでの話

おじさんは昔おじさんではなかった。それどころか、男の子でさえなかった。男の子に生まれなかったおじさんが、いかにしておじさんになったかを少しずつお話ししていきます。

縫いもの会社でなぜか嫌われた話〔個人史8〕

ごきげんよう、年内に取得を目標としていた2つの資格試験の両方に合格して浮かれているおじさんです。今年いっぱい浮かれておこうと思います。

さて、おじさんががんばっても駄目だった対人のお話をする予定でしたね。おじさんにとってとても厭な経験で、だからお読みくださるみなさんも厭な気持ちになってしまうかもしれませんが、おじさんの女性への偏見が強固になってしまったエピソードでもありますので、記しておきます。

厭な気持ちになるのは厭だなー、という方は、このお話が終わるところに赤い色をつけておきますので、そこまで飛ばしてください。

縫いものの会社へ

まだおじさんが世を忍ぶ仮の女性として過ごしていた頃でした。ある職場を退職した後、早く新しい仕事に就かなければと焦ったり気に病んだりで頭がぐるぐるしていたところに、かつての職場で親しくしてくれていた人が、御父君が経営している会社で求人があるから来てみないかと声をかけてくれました。

その会社は洋服などの縫製の会社で、いわゆるお針子さんを募集しているのだとか。

しかしそもそもおじさんは縫いものが苦手でした。高校生の頃、家庭科でスカートをつくりましたが、授業中にロックミシンという布の端を裁ち落としながらかがり縫いをするミシンを使っていたところ、見まわっていた先生が「見ていられない」と言っておじさんから課題のスカートを取り上げ、自分で縫ってくれたというエピソードを持っています。

f:id:oji-3:20201125174447p:plain
つまり、おじさんは絶望的にミシンが下手なのです。真っ直ぐ縫っているつもりでも蛇行していたりするのです。布2枚を重ねて縫っていたはずなのに1枚しか縫えていなかったりするのです。布2枚を重ねて縫っていたはずなのに3枚しか縫えていたりするのです。

しかし、知り合いの会社でもあるし、自宅から比較的近所でもありましたし、何より社長面接を受けてみますと「未経験でも下手でもやる気があればOK」とのこと。上手でなくても仕事にしてしまえば毎日やることになるし上手になっていくのではないか、という希望的観測にも助けられつつ、取り敢えず勤めはじめたのです。

縫いものの職場ということで、現場は女性ばかりでした。3~4歳年長かしらという人から50歳は年長かしらという人まで、全部で6人。うち2人が40代半ばくらいのパートさんでした。そこへおじさんと以前の職場での同僚の、20代の2人が新人としてお世話になることになりました。

理由がわからないまま

縫いものは確かに下手くそなので、できるだけ早く上手になろうとがんばっていたつもりです。実際に上手になったかどうかは別として。間違いなく真面目に勤めていました。これは自信があります。

当時、20代も半ばを過ぎた頃でしたので社会常識もそれなりに身について、挨拶や掃除やお茶くみなども率先してやっていましたし、仕事も可能な限りのことをして、ごくごく当たり前に勤めていました。必要なことをきちんとやって、余計なことは一切しないでいました。できるだけ気をつけて、そのようにしているつもりでした。

f:id:oji-3:20201125164117p:plain

しかしおじさんは、なぜか40代パートの2人にえらく嫌われたのでした。原因はわかりません。挨拶の類いは必ずこちらから丁寧にしていたし、仕事は持ち場が離れているので邪魔のしようもないし、この2人についての噂話なんてのも一切したことがありません。

だというのに、こちらから「おはようございます」を言っても「おつかれさまでした」を言っても無視されてしまうし、上司からのお使いをして資材を手渡しても無言で奪われるようなありさま。おれが何かしましたか、と常々思っていました。思っているだけじゃなくて直接訊けばよかったのかもね、といまになって思っています。

職場のレクリエーションで会社の庭でBBQをしたときなど、おじさんは指示なくして片付けに着手、片付けが終わればまだ終わっていない箇所の手伝いに行き、手伝える場所がなくなれば掃除をして、屋外がすっかり片付いた後、洗い物に立っている40代コンビに「何かお手伝いすることはありませんか」と訊ねました。

このときまでおじさんは、挨拶やら何やらを無視されても、自分の声が小さくて聞こえていなかったのかもしれない、と考えていました。

だから、このときは40代コンビが水仕事をしていたこともあったし、かなり声を張って訊ねたのです。離れた場所ではなく、すぐそばに立って声をかけたのです。でも返事がないのでさらに一歩近づいて、さらに声を大きくして「お手伝いしましょうか」と言いました。やはり返事はありません。

f:id:oji-3:20201125164012p:plain
だめ押しに半ば怒鳴るような勢いで「お手伝いは必要ないですか」と声を張りました。40代コンビが洗い物をしているのは屋内ですから、聞こえないはずはありません。それでも、40代コンビはこちらを振り向くことすらありません。これは間違いなく意識的に無視されてるんだ、と確信しました。

考えてみても無視される理由が思い当たりません。それでも自分が嫌われているのだろうことははっきりとしました。途端にそれが負担になって、おじさんはそれから次第に会社への足が重くなり、1ヵ月も経つ頃にはとうとう会社に行くことができなくなってしまいました。だってうつ病持ちだもん。

ことの次第を社長と社長のご息女(つまり、かつての職場で親しくしてくれていた、仕事を紹介してくれた人)とに話しましたが、どうにも先任である40代コンビの方が尊重されたようで、かつ精神疾患持ちということで狂人扱いされてしまいました。

状況は変わらなかったので、一緒に勤めはじめた以前の職場での同僚に退職を相談。すると彼女も「私も居心地悪くて辞めようと思ってました」とのことでした。という訳で、もと同僚とは時期をずらしつつも、2ヵ月くらいで縫いものの会社は退職してしまいました。

ヤな人は確かにいる、その一方

前項の例のような「複数人数での明らさまな無視」って、女性特有に思うのですが、そんなことないのでしょうか。すくなくとも1990年代まで、私と私周辺の人々の間でこのような陰湿な態度を取る男性の話は聞いたことがありません。

明らさまな無視、あるいは「つい先刻まで一緒に話していた人が席を外した途端にその人の悪口を言う」とか、「お互いに悪口を言っておきながらその人が来たら素知らぬ顔で仲いい振り」というのも、女性の集団で見かけること一度や二度ではありません。工場などの年配女性がたくさん働きに来ている場所ではたびたびそういう行いに出くわします。

f:id:oji-3:20201125165243p:plain
そのたびに「女てのは信用できねえ」という偏見をおじさんは抱いていたのです。2000年を20年も過ぎた現在では、男性にもこの手の人たちが現れたという話を聞き及んでおりますので、女性だけが悪しきものではない、ということは意識しておりますけども。

こうして女性不信、人間不信を抱えるようになったおじさんでしたが、縫いものの会社を辞めた後、今度は織物の会社に勤めるようになります。布を縫うのではなく、布自体をつくる会社に入ったのですな。

そこにいた先任の女性パートさんがとても親切丁寧に仕事を教えてくれて、「取り返しのつかない失敗なんてないから、失敗してもいいの」、「荷物の引き取りに業者が来ても伝票ができていないと慌てる必要はない、待たせればいいの」とずいぶん気が楽になる教えを垂れてくれて、おじさんはとてもとても働きやすくなったのでした。

ヤな人って確かにいるけど、いい人だっているんだよね。

f:id:oji-3:20201125183604p:plain
という訳で今回は、誠心誠意でおつき合いしようとしても、理由もわからないまま嫌われたり意地悪されたりすることはあるんだという経験と、それによる女性への偏見を持っていたことをお話ししました。厭な経験は厭な思想を生みがちですね。

おじさんの仕事上での厭な経験というのは、今回お話しした一件に集約されてしまいますので、これきりにしたいと思います。次回は、そうですな、たくさんの転職を経て、世を忍ぶ仮の女性を辞める辺りのお話に辿りつけばいいな、と思っとります。

▼クリックしてみないか!

ブログランキング・にほんブログ村へ